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2012年の8月に『蝉の穴』の公演を観せて頂いた者です。
それが私にとって最初で最後の、加藤さんの舞台姿でした。
9月になりしばらくして、『蝉の穴』を勧めてくれた友人を介して、訃報に接しました。
終演後のアンケートでは、ちょっと生意気なことも書いてしまい、いまだ慙愧に耐えないのですけれど、あの舞台の印象は、掛け値なく鮮烈なものでした。とくに「8月15日」をめぐる声低いメッセージ性が、いまでも静かに心のなかに響いています。あの戦争/これからやってくる戦争を思うときにはいつも、『蝉の穴』の舞台を想い出すことでしょう。
あの晩、舞台に並べられたお酒を横目に見ながら、ひとり外に出たとき、知人の方々と歓談されていた加藤さんが、つーっと私のところに来て、わざわざお礼の言葉を丁寧に述べてくださいました。
あのとき、もう少し私のほうから積極的にお話を伺えばよかったのにと、加藤さんのことを思い出すたびに考えます。人生、取戻しようのないことばかり。だからこそ……、といった教訓を与えてくださったのかもしれません。見ず知らずの人間にも、きちんと挨拶をする。そうした人としての基本の態度を、身をもって教えてくださったのかもしれません。
数日遅れてしまいましたが、ひとり静かに献杯をさせて頂きましょう。今年も、来年も、そしてそれ以降も忘れることなく。
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